なるようになる

新幹線で読む本はないかな?と品川駅の書店を回っていて目についた本「人生をいじくり回してはいけない」ちくま文庫水木しげる著とあって、小学生時代に観た「ゲゲゲの鬼太郎」が脳裏によぎり手に取ってそのまま購入してしまいました。そういうと、しばらく前にNHKドラマのゲゲゲの女房向井理さんが水木さんを演じていましたね。

今、年度切り替えの時期とあって、力が入る、キリッと力を入れないといけないと思ってしまう、そんな時なので、逆にこの表題に引きつけられてしまったのだとも思います。

水木さんは、戦時下召集され入隊した連隊でラッパ卒になったけれど、ラッパが吹けないのでやめさせて欲しいと申し出たがきっかけで、南方に送られ爆撃で左腕を無くしています。

けれども、生来ののんきな性格が何度も戦争での運命の分かれ道を生き延びる方向に仕向けてきました。とにかく、寝坊で朝起きれないために小学校を一年間遅れて入学することになった上、その後も寝坊と遅刻を繰り返し、しまいには彼の遅刻は全校の常識になり遅れても誰も振り返らなくなったというのですから、かなりなのんきものです。

南方、ラバウル(ニューブリテン島)では、オウムに見とれていたゆえに機関銃から逃れ命拾い、スケッチに出かけた部落では親友まで作り日本への帰国を引きとめられ除隊を考えたくらいの現地人への近づきようだったようで、これこそ彼ののんきでマイペースで人好きな人柄がそう導いたのでしょう。最も、現地人に「前世の因縁」のような結びつきを感じたのだそうですが。食べ物がないなか、バナナやパンの果(み)をもらったそうです。

やりたくないことはやらなくていい、「自分が好きなことをやる、そのために人は生まれてきたのだと私は思います」と水木さんは言います。戦争で九死に一生を得たからこその達観で、私などが及ぶことができる精神の域ではないのかもしれないと思う部分はありますが、好きだからといって成功するわけではないけれど、「好きなことに情熱を傾けている時は、幸せの空気が漂っている」というのには、肯けました。

人生にはいろんなことが起こって当たり前、それに一喜一憂するのではなく、放っておく、下手にいじくり回したところで何も解決にならない、自然の流れに身をゆだねてしまったほうがいい。ラバウルの人たちこそが、そういうわかりやすい人生を送っているそうです。人生の方向性を示してくれる人々に戦争で出会うというのも、水木さんならではかもしれませんが、その場その場で情熱を傾けることに長けておられるからこそ出会えるのでしょう。

ゆだねつつ、情熱を傾ける、なるほどと思いました。