さざめきと亡霊

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「ボルタンスキー展」を観に東京都庭園美術館に出かけてきました。クリスチャン・ボルタンスキーは、一貫して、歴史の中でろ過される記憶の蘇生やそのなかでの匿名性の生と死を表現しているフランスの現代美術家です。アニミタスーさざめく亡霊たち というタイトルで、亡霊たちのさざめきが展開されていました。

朝香宮廷である美術館に入って行くと、はじめに、どこからともなく女性や男性の声が飛んできて、その言葉が私自身と関連しているかのような感覚に襲われました。幻聴体験というのでしょうか。平日の比較的空いている時間に入館したせいか、幻聴体験は奇妙な感じに、私が次の部屋に移っても追ってきて、誰かが壁の向こうに存在しているかのような錯覚に陥りました。

宮廷をめぐっていくなかでは、おどろおどろしい揺れる影が映されている部屋、暗闇に心臓音がどっくどっくと流れる部屋があって、一人で訪れている人たちが部屋の真ん中で立ち止まり、部屋全体に流れている感覚や感情を味わっていました。立ち止まらざるを得ない何かの力があるかのようでもありました。また、大会場では、カーテンの間仕切りの上の方に女性や男性のまなざしが描かれていて、あちこちからまなざしが飛んでくるかのようでしたが、2人づれの女性客が黙って観ていられないのか、くちゃくちゃとおしゃべりをしていました。幻想的な場にそぐわない現実的な声が響く違和感と、そのそぐわない場に対しての不思議な現実感を感じました。

最後に、さざめきを表す2つの映像の部屋。ベンチが準備されていて、そこで一人見入っている若い男性がいました。ベンチが二人掛け一脚しか無い、一人か二人で味わうことを設定としているかのような部屋のなかで、大自然の映像に風鈴音がながれてきて、亡霊がとなりに居そうに感じる体験を提供していました。

こうした表現の奥底には、ナチス強制収容所の死の記憶があるのだそうですが、私は統合失調症者の体験世界を表しているようにも感じました。一人でぐっと集中して回ってみたことで、自分自身が、そうした体験に近づき非現実と現実の間を行き来したような時間をすごしました。