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全米大ベストセラー、[OPTION B ]のタイトルに引きつけられ、シェリル・サンドバークの人生物語を読んでみました。夫のデーブのあまりにもの急死に驚き絶望し、けれども立ち直るそのプロセスを、力強く躍動感あふれるリズムで書いています。櫻井祐子さんの翻訳がこなれていてとっても分かりやすいのも、シェリルさんの生き生きとした日々が、どくどくと伝わってくる理由だと思います。

副題にー逆境、レジリエンス、そして喜びー とあり、精神障害者の回復でも取り上げられるレジリエンスなどの文字が目を引くのですが、FacebookのCEOであるという有名人が、夫の死を機に、それをOPTION B、と捉えて奮闘するところに、人間として身近さを感じられるところが、ベストセラーにつながったとも言えるでしょう。

シェリルさんは、レジリエンスの種まきとして、セリグマンが3つのP、自責感(Personalization)、普遍化(Pervasiveness)、永続化(Permanence)が苦難からの立ち直りを妨げると述べていることを取り上げて、また「つらいできごとが、自分ひとりのせいではない、すべてではない、ずっとではない」と気づけば立ち直りが早くなるという研究成果を引用しています。

誰かに語ることの重要性、耳を傾け話しやすいように気を配ってくれる人のことをオープナーと言い大きな救いとなることを強調し、そして、シェリルさん自身が、同僚に友人に多くの人に聞いてもらいながら回復した実体験と、さらにはシェリルさん自身の周りの人たちの別れや暴力や虐待などの逆境体験と、その逆境からの立ち直りについて、学究的な視点も交え距離を取りながら論じつつ、感情を込めて語る、そんな文体でした。

回復の途の激しい感情の変化と感情の力と早いペースは、米国のハイテンションな成果重視社会のなせる技のようにも思え、読んでいて着いていけないところもありました。けれども、レジリエンスは、個人のなかで育まれるだけではなく、個人のあいだでー地域で、学校で、町で、政府でー、育むことができ、人々が一緒にレジリエンスを育めば、個人として強くなれるだけではなく、コミュニティとしても、ともに障害を乗り越え、逆境を未然に防ぐことができるという見方には、まさに体験に基づく力が溢れていて共感しました。

また、人間らしさは、人とのつながりの中から生まれる、そうした考え方が、シェリルさんの実体験を通して、Fecebookの「いいね」に込められていることは知ってよかったです。

 

シェリル・サンドバーク、アダム・グラント、OPTION B、日本経済出版社、2017