毎日が面白いかどうか

古い本を整理していたら、「海馬 脳は疲れない」という池谷裕二氏、糸井重里氏の対談を編集した単行本が出てきました。この本は文庫になったと記憶しているので、随分古いはずと思ったら、2002年となっていました。15年前かあ。

ぱらぱらめくってみましたら、結構面白く、読みだしてしまいました。ずっとブームだった「海馬」を中心に、脳機能について、日常の私たちの行動に照らし合わせながら解説しているのです。海馬は記憶の製造工場ですが、その記憶の仕方の特色は可塑性なのだそうです。可塑性とは、粘土が形作られるそれです。もしボールのような弾性であったら、それは記憶として形作られない、粘土のように押したりすると変形として残っていくので記憶になるのです。トラウマなども、このように形作られますが、粘土と同じように、その傷は無くなることはなく、しかし、人間は傷を抱えながらも、他にもさまざまな可塑性による記憶を豊富に作るので、それがレジリエンスとして機能するようです。そして、可塑性は動物のなかでも、人間の脳に最も多く与えられているそうです。人間らしいゆえんを作っているのです。

脳はいつも刺激を求めています。閉鎖空間に閉じ込められた際に、幻覚や妄想が出てくるのも、脳が刺激を要求するためだと説明されていて目を引きました。いつも面白いことを探しているのが脳。そして、面白い刺激を繰り返し繰り返し求めるようになる果てに、天才が現れるそうです。

確かに、面白いことならば、他のあれこれはさておき、続けたくなるものです。続ければ、海馬は増え続け新たな記憶が作られます。よく、年だから忘れっぽくなったと言いますが、年を取っても脳を使えば海馬は増え続けるので、年は関係なく、日頃の好奇心とか関心を持てる何かとのつながりを絶やさないことが大事なのでしょう。

神経細胞はどんどんネットワークを作っていきます。それも30歳、40歳を超えた方が活発に脳が動くようになるそうです。脳を活発に動かすには、やる気が必要でしょうが、逆に、やる気は何かをやりはじめることによって出てくるものだそうです。まず先に、行動ということです。

環境に埋没し身動きが取れないという、あきらめから脱する一歩を踏み出すことそのものが脳を活性化するのです。さらには、こうして、日々一歩を踏み出し続けるということが、生きるということなのでしょう。一歩を踏み出すやる気を引き出すには、達成可能な目標とか、海馬とつながりが深く、感情をつかさどる篇桃体への刺激。後者には、ちょっとした生命危機である、お腹を空かせるとか部屋を寒くするとかいった方法があるそうです。

思考が停止気味の私は、ああ踏み出す努力が足りなかったかとちょっと思ってしまいましたが、この本と出会ったのは適時だったようです。