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精神保健看護3 ナラティブと看護

看護学にナラティブという言葉が入ってきて15年以上が経ちますが、最近では療養型病院の新人研修に、自分の看護をナラティブに語るというテーマが設けられるなど益々注目されているようです。

ナラティブ理論は最初は文芸作品の吟味から発展したのですが、話されたもの、書かれたもの、視覚的なものを含む多くの種類のテクストはナラティブととらえることができます。伝説、小説、歴史、ドラマ、パントマイム、絵画など、ナラティブのない民族はどこにも無いと言われています1)。

看護領域には、野口裕二氏の「物語としてのケアーナラティブ・アプローチの世界へー」が大きく影響しましたが、私自身は大学院時代にクラインマン氏の「病の語りー慢性の病をめぐる臨床人類学」におけるさまざまな事例を興味深く読んだあたりから関心を持つようになりました。

最近ではリタ・シャロン氏による「ナラティブ・メディスン」のなかで、医学生への訓練プログラムとして開発されたパラレル・チャートが、看護学実習で昔から活用されてきた日々の体験について綴る実習記録に似ているのを発見しました。これは、カルテには書かない、患者との出会いに触発された自分の体験を書くもので、看護学生たちには「日々録」とか呼ばれていてあまり重視していない人も多いのですが、実際には、一日の看護体験をストーリ化することによって翌日の看護につなげる重要な役割を持っています。

看護の分野は新しいのも好きで、新しい言葉が出てくると、そのまま飛びつく傾向があるのですが、ナラティブ・アプローチによる対話の意義の強調は、エーリッヒ・フロムやロジャースや精神科医サリバンに影響を受け1950年代に看護理論を書いたペプローによるプロセスレコードという方法にも見て取れます。プロセスレコードは、患者と看護師のやり取りをそのまま会話として記録し、そのやり取りの意味を分析し援助に活用するものです。宮本2)は、ナラティブ・アプローチをペプロウの援助関係論の新しい流れと位置づけています。

ナラティブのない民族は無いというのですから、ナラティブのない社会もまた無いでしょう。ナラティブは保健・医療・教育領域の援助職のみならず、さまざまな学問領域からの関心も得ています。こうした多領域の専門家がナラティブをキーワードに協働していくことで、個人や社会を関係性の視点で捉えていくことで、援助を必要とする人々の心理社会的問題への個別な取り組みを可能にするのではないでしょうか。

 

1)大久保功子・宮坂道夫監訳(2014)人間科学のためのナラティヴ研究法 クオリティケア

2)宮本真巳(2015)ペプロウの援助関係論からナラティブ・アプローチへ 精神科看護42(4)28-37