Prison Circle

島根あさひ社会復帰促進センターは、ICタグCCTVカメラが受刑者を監視し、食事搬送やドア施錠を自動化する新しい男子刑務所で、日本で唯一Therapeutic Community 回復共同体 (TC) という受刑者同士の対話をベースに更生を促すプログラムを持っている刑務所です。冬はしんしんと雪に包まれ静かですが孤独な施設のように見えました。

処罰から回復へーと変わろうとしかけているこの刑務所で、2年間の密着取材により、描き出された映画が Prison Circle です。監督の坂上香氏は、「Lifers ライファ―ズ 終身刑を超えて」「トートバック 沈黙を破る女たち」など、これまで米国の受刑者を取材し続けてきましたが、今回は取材許可がおりるまでに何と6年かかったそうです。

服役中の若者の顔の部分はプライバシー保護用にブラーがかけられていました。

映画は10章にわけて進められましたが、各章には主人公の名前がテーマとしてつけられています。拓也、真人、翔、健太郎。TCは1クールが3か月。クール毎に新規生が入ってきます。

TCは、心理や福祉などの専門性を持つ民間の支援員が運営するグループで、参加する受刑者はその時間のみ通常の作業から離れることができます。明るい室内で円に並べられた椅子に座り、テーマごとに15~20名全員であったり、3~5名の小グループとなったりして、対話によって進められていました。

20名もの参加者の真ん中でのリーダーを務める支援員は、勇気が要るのではないかと感じましたが、観ているうちに、このグループの中心はピアによる支え合いだと確信させられました。受刑者同士だからこそ、苦しさや孤独感が分かり合える、その強固な支え合いによって、少しずつ、犯罪の現場やさらにさかのぼって、子どもの頃の記憶までが語り合われていきます。

受刑者の多くの記憶は否認され、抑圧され、記憶の奥底にうずもれ、その人らしさを隠蔽していました。例えば、22歳の拓也ははじめのころ、子ども頃の記憶があまりない、と言って、聞かれてもそれ以上答えられませんでした。けれども、TC参加継続のなかで、少しずつ記憶が呼び戻され、両親との苦痛な関係や施設でのいじめが語られるようになっていきます。

お金に困り親せきの家に押し入って怪我を負わせた健太郎も、その犯罪現場について、小グループでのロールプレイを通してリアルに思い出し、さらには被害者への感情を受け止めるようになっていきます。相談するよりも親戚を殺すことを選択する壮絶な孤立無援感をわかってくれるのは同じ受刑者だからこそではないでしょうか。聴く者からの共感が伝わり合うからこそ、今日まで感情を麻痺させてサバイバルしてきた受刑者一人一人が、改めてその人自身を過去と共に取り戻し変わっていくのだと知り、感動が心に残りました。

刑務所では番号で呼ばれ、みなイエローとグレーの同じ服を着せられ、食事、作業など決められた一日を送っていました。また他者に触れてはいけないというルールもあるようで、話を聴いた取材者に握手を求めた受刑者が警備員に禁じられるというせつない場面もありました。こうした日々に、TCでは名前で呼び合い人間性を重視した安定した安全な人間関係をつくることができます。人間の心の傷つきは人間によってこそ癒されるということやグループの力を改めて感じ、更生とは何か考えさせられた映画でした。

現在4万人に上る受刑者のうちTCに参加できるのは40名ということでした。

 

映画『プリズン・サークル』公式ホームページ